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“幸せな働き方”探求
多様で柔軟な働き方について考えます​
Aug. 30, 2021
多様で柔軟な働き方-仕事と治療の両立(その2)

|はじめに|

 前回の多様で柔軟な働き方-仕事と治療の両立(その1)に続き、仕事と治療の両立支援の在り方を切り口に、引き続き“幸せな働き方”を探求していきます。

 ここでは、企業など組織を対象として、「仕事と治療の両立支援の目指すところは、社員の“ウェルビーイング(well-being)”であり、サステナブル経営の観点から結果的に企業の成長力、持続力の強化に繋がる」という発想に基づいています。

 

|裁量の自由度が鍵を握る|

 前回の本ブログ記事で、「裁量の自由度」がキーになるとお伝えしました。

 本来、「裁量とは、当人の考えや判断に基づいて行動すること」ですが、ビジネスの現場では、組織環境によって自由裁量と言っても自己決定の度合いに差があります。それを踏まえたうえで、あえて裁量の自由度という表現にしています。

 

 政府主導で始まり、各企業が推進している働き方改革では、「時間」と「場所」に言及されることが多く、例えばシフト勤務、短時間勤務、フレックス勤務、時間単位有給休暇、在宅勤務、テレワーク(リモートワーク)などがあり、雇用する側が働き方の選択肢を増やし、働く人がその中から選ぶものが散見されます。

 

 しかし、時間と場所は、あくまでも働き方の物理的な要素にすぎず、働き方改革の中身が雇用する側主導の制度設計になっており、現場の声を聴いてみると、本当の意味での多様で柔軟な働き方になっていないことが一般化しているように感じています。

|「物理的要素(時間や場所)」×「働く人」×「プロセス」|

 これらの物理的な要素に加え、重要なのは、「働く人(含意向、個別の状況)」および「プロセス」なのではないでしょうか。

 

 もちろん、組織に属している場合、働く人が好き勝手な働き方をすることはできませんが、組織の規則や制度の基で、働く人の裁量の自由度を最大化できるよう、雇用する側と働く人は丁寧かつ適切に対話などの意思疎通を図り、調整を行うことが大切です。

 

 「働く人」×「プロセス」とは、例えば雇用する側は、罹患社員から現状や今後の見通し(現時点での予測)、望ましい働き方を聞き取り、医師など専門家から提供される情報(インプット)を基に、仕事と治療の両立を実現させる多様で柔軟な働き方(アウトプット)を推進する両立プランの作成およびコミュニケーションを持続的に行うことを現しています。

 

 持続性が必要な理由は、罹患社員の病状の経過、働き方に対する考え方および組織を取り巻く環境などは一定ではなく変化をしていくため状況に応じ、制度の見直しや両立プランを変更するなど柔軟な対応が欠かせません。

 つまり、汎用的な支援制度を導入すればお終いではなく、実状に合った柔軟な対応をすることで付加価値を高めていくことが求められます。

 

|仕事と治療の両立の現状-不本意な退職?-|

 東京都「がん患者の就労等に関する実態調査」-がん患者向け調査(2014) 1) によると、調査対象者831人のうち、がん診断時に法人で就労していた人は73.3%、うち正職員は67.8%となっています。

 

 就労していた人のうち、がん罹患後に退職した人の割合は 21.3%(n=609)となっています。退職理由(n=130, 複数回答)としては、「治療・療養に専念するため」が 53.1%と最も多く、次いで「体力面等から継続して就労することが困難であるため」(45.4%)、「周囲に迷惑をかけたくないため」(34.6%)、「職場に居づらくなったため」(17.7%)、「職場から勧められたため」(15.4%)、「家族から勧められたため」(4.6%)の順となっており、「その他」(27.7%)、「無回答」(0.8%)という結果になっています。

 退職者のうち、「仕事を続けたい(したい)」人の割合は67.7%と高くなっています。

 仕事を続けたい(したい)理由(複数回答)の上位は、「家庭の生計を維持するため」(72.5%)、次いで「働くことが自身の生きがいであるため」(57.4%)、「がんの治療代を賄うため」(44.5%)という結果になっています。

 退職した人の約7割は就労継続を希望していたため、先述の退職理由のなかでも、直接的に体調とは無関係な「迷惑をかけたくない、居づらい、職場勧奨」などは、雇用する側と罹患社員の間で適切なコミュニケーションをとることができず退職に至ったケースが少なからず存在するのではないかと推測されます。

 最近では、健康経営の観点から多様で柔軟な働き方や仕事と治療の両立支援の在り方に積極的な組織が増えてきていることもあり、サステナブル経営への関心の高さと実行力が企業規模や業績に大きく左右されず、善い形で連鎖していくことに期待を寄せています。

|裁量の自由度の最大化|

 先に示した、裁量の自由度の最大化とは、働く人が自分の考えや判断で働き方を決めることができる最善の状況を創出することです。

 経営者、人事担当者や上長から促され、不本意ながら提示された条件を承諾するのではなく、罹患社員が納得のいく話し合いを第三者(専門家)の意見を交え、客観性を担保しながら進めていくことが求められます。

 

 組織の規則や制度に多様性および柔軟性の発想が反映されなければ、便宜上、働き方の選択肢を増やすことに留まり、働く人が自分の意思で働き方を決められる度合いを高めることはできません。

 

 現実社会において、「自社には、前例がないから…」という曖昧な表現で支援社員や罹患社員からの提案や進言を一言で片付けてしまう経営者、人事担当者や上長が存在します。前例がないからこそ、考え、行動するタイミングにあるということではないでしょうか。

 

|おわりに|

 社員の仕事と治療の両立を実現することは、働く人にだけメリットがあるわけではありません。

 

 雇用する側は目先の負担を回避することを考えるのではなく、中長期的な経営課題として捉え、自社にとってメリットがあることを認識する必要があります。

 例えば、貴重な人的資源(人材・人財)として継続して力を発揮してもらえる(病状によって配置転換や業務変更が生じる可能性があることを考慮したうえで)、支援体制が整備されていることで社員が働きやすさや働きがいを感じ生産性向上に繋がる、外部からの評価が期待できる、新たな人材の確保および人材の流出抑制に繋がるなどが挙げられます。

 

 そして、これらはサステナブル経営、組織エンゲージメントには欠かせない点であると言えます。健康経営および働き方改革を推進するうえで、仕事と治療の両立支援についても具体化され実効性が高まることを願います。

 以降、次回に続く…。

〈出所〉

1) 本データは、東京都が下記の通り実施した調査結果から抜粋したものである(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp)

・東京都福祉保健局が平成26年5月に公開した統計では、立場の異なる3者、事業所向け調査、がん患者とその家族向け調査を実施

・がん患者とその家族向け調査は、平成25年10月15日~11月29 日に行われた

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