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幸せな働き方
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多様で柔軟な働き方について考えます​
Oct. 21, 2022
多様で柔軟な働き方-仕事と治療の両立(その4)
 
「コロナ禍で一気に普及した“リモートワーク”が治療と仕事の両立に好影響」

はじめに

 世界的に猛威をふるった新型コロナウイルス感染症ですが、我が国では約2年半に渡り感染対策を講じ、徐々に規制が緩和されてきました。

 

 一方で、変異株、ワクチン副作用、治療薬、罹患後遺症などはっきりしないことが多く、今後も企業・組織は、新型コロナウイルスに限らず、様々な感染症を想定し、基本的な対策を継続しながら、社会・経済活動と折り合いを付けることになるでしょう。

 

 がんなどの治療と仕事を両立している人の多くは、治療による体調不良(副作用、免疫力低下など)に加え、新型コロナウイルスに罹ったときの重症化リスクを懸念し、感染対策を継続しつつも、社会環境(職場や日常生活など)の状況によって、今もなお内心不安な日々を送られています。

 企業・組織は、新型コロナウイルスの陰性確認やワクチン接種、対面でのコミュニケーションに固執するのではなく、様々な事情を抱えた働き手がいることを再認識しておく必要があります。

 

 2022(令和4)年1月、東京都が公表したがん患者アンケートの結果を踏まえ「コロナ禍でのがん治療と仕事の両立」に着目し、企業・組織における支援の在り方を考えます。

 

コロナ禍でのがん治療と仕事の両立

 本ブログでは、「東京都 がん治療と仕事の両立に関する患者アンケート」1を活用しています。

 

 当該調査は、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大後、がん治療と仕事の両立についての良い影響や悪い影響」を自由記載にて回答する設問などがあります。両立をしている働き手の切実な声を知ることができ、企業・組織において治療と仕事の両立支援を推進する過程で参考になるものと考えます。

 

 公表されたアンケート結果の中から、コロナ禍での両立についての影響として列挙されている自由記載を基に、筆者がアフターコーディングにより整理*したところ、次のような傾向が見えてきました。

“リモートワーク”の推進が治療との両立に好影響

 自由記載のうち、キーとなるワードから「その他」を含む10項目に分類し、カウントした結果を比率で示しています(図1)。尚、当該調査における設問の趣旨に即している回答を有効としカウント**しています。

 (1)コロナ禍での「良い影響

 「リモートワーク(在宅勤務)」は79.4%、約8割という結果になっています。次いで、設問が治療との両立を前提としているため、敢えて「治療(通院/入院)」と記載していない回答も見受けられましたが、記載している回答だけで50.0%、半数が「治療について良い影響があった」としています。うち、治療とリモートワークの相関では88.2%と約9割が「リモートワークにより、治療日程の調整や副作用などの体調管理がし易くなった」ことを挙げています。リモートワークに加え、「時差・分散出勤」や「時短」などが導入されたことも両立に良い影響を与えています。
 また、「社会・職場の感染や対策の状況」は11.8%でしたが、自身の置かれている環境によって良し悪しが分かれ易いことが伺えます。
 
 (2)コロナ禍での「悪い影響
 一方、悪い影響として「社会・職場の感染や対策の状況」が37.0%と一番高い数値となっています。業種や職種、働き方によっても状況が異なると考えられますが、放射線治療や化学療法(抗がん剤など)で免疫力が低下している中、新型コロナを含むウイルスに感染する可能性への不安が多く見られました。次いで、「病気・治療への職場の理解」が23.9%、約4人に1人が「理解を得られていない」と感じています。同じく「免疫・抵抗力低下/副作用」が23.9%となっています。「体調変化が治療によるものとコロナ感染によるものとの区別がし難いこと」、「感染リスク(重症化など)への不安」などが挙げられています。「リモートワーク(在宅勤務)」を悪い影響として回答したのは6.5%と少数でしたが、「相互の様子が分かり難い」、「一部にのみメリットがある」という回答もあります。

 

 (3)自由記載の整理から読み取れること
 がんなどの治療と仕事を両立している方々は、自身の身体的・精神的、そして社会的な状況によって、働き方への満足感や抱える不安の度合いが様々です。

 当該調査の整理から見えたのは、「通勤」(所要時間/混雑状況/様々な感染リスクなど心身への負担を伴う)が無くなるだけで、両立がし易くなることです。
 中でも、治療日程の調整は、罹っている医療機関と仕事のスケジュールに拠るものが大きく、また治療の副作用、不衛生な職場や密な通勤による感染リスクもあり、コロナ禍以前であれば休職や退職、有給休暇の充当を余儀なくされていました。
 しかし、コロナ禍を機に多くの企業・組織においてリモートワーク(在宅勤務)の導入や多様で柔軟な働き方のし易い職場環境が生まれたことで、結果的に両立に好ましい状態になったということです。

企業・組織における“治療と仕事の両立”支援の在り方

 先述の調査の回答には「コロナ禍収束後、元の働き方に戻ってしまうのではないか」ということへの不安も見られます。

 コロナ禍以前は、オフィスなど職場に出勤して働くのが当たり前、あるいはリモートワークに無関心(検討の選択肢にも無い)だった職場でさえ、ニューノーマルな働き方にシフトすることを可能にしました。

 リモートワークの推進など多様で柔軟な働き方は、コロナ禍の対処療法のようなものではなく、働き方改革においての有効性を明らかにすることで持続性も高まります

 

 企業・組織で両立支援を行う際には、働く人と対話し、相互理解を深めることが望まれますが、必ずしも両者が本音で語ることができない場合もあります。

 アンケート結果(治療と仕事の両立に関する)や専門家の意見・情報、罹患社員との対話などを参考に、企業・組織としての理解を深化させ、多面的な検討をし、提供する支援策と働く人の求めていることとのギャップを最小限にすることが不可欠です。

 近年、「人的資源から“人的資本”」の考え方にシフトしてきていることもあり、働く人を資本として捉え、価値を最大限に引き出せるようソフト・ハード両面での働く環境の整備、教育(リスキリング)、キャリア形成(自律)、および健康増進のサポートなど包括的に捉え、働く人に適切な投資をしていくことが求められています。

 企業規模や業種、業績、就業形態によって「人への投資」の捉え方や実効性に格差が生じることは否めません。とはいえ、企業・組織が成長・発展していくうえで、人への投資は避けて通ることはできず、サステナブル経営に大きな影響を及ぼす一因と言えます。

 

おわりに

 治療を余儀なくされた方々が、適切な治療および働くことを諦めずに「より良い状態」で社会生活を送れるよう、政府および企業・組織が連携し、制度策定に留まらず、両立可能な環境を創り、個人の状況に応じて柔軟な対応をしていくことが望まれます。

 現在、治療と仕事を両立している社員がいない場合でも、貴重な人材を資本と捉え、働く人の価値を見出していかなければなりません。

 そのためには、企業・組織は経済発展と調和できる寛容性を育み、働きやすい風土を醸成し、安心して働ける環境を創り、企業・組織、そして働く人の両者にとって「より良い状態」に向けた変化が起きることを期待します。

 

 当社では、サステナブル経営(人材戦略) の観点から「治療と仕事の両立支援コーディネーター」によるサポートを提供しています。

 お問い合わせは、随時承ります。まずは、こちらのフォームよりご連絡ください。

〈出所〉

1) 東京都福祉保健局『東京都 がん患者の治療と仕事の両立に関する調査 報告書』-「東京都 がん治療と仕事の両立に関する患者アンケート」PP.23-28, 2022.1

〈注〉

*本ブログで引用した設問における自由記載の分類で「良い影響」、「悪い影響」以外に分類されている回答のうち、良い影響および悪い影響と見なされるものについても再分類しカウントを実施

**東京都の調査対象はN=691、当該設問の自由記載数=90件となっており、本ブログでは「良い影響」34件、「悪い影響」46件を有効と見なしアフターコーディングに使用

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